博報堂人が、社会テーマや旬のトピックスを題材に、生活者の暮らしの変化を語る対談企画「キザシ」。
第一回目は、博報堂エネルギーマーケティング推進室・横山陽史(よこやま・はるふみ)と、博報堂生活総合研究所・夏山明美(なつやま・あけみ)が、2016年4月1日からスタートする「電力の小売自由化」をテーマに語ります。

電力自由化から始まる暮らしの変化

横山:2016年4月1日、電力の小売全面自由化がスタートします。すでに、1995年に発電の自由化が開始され、「高圧」(6000V以上)部門の小売自由化が2000年から段階的に進められてきましたが、2016年4月1日からは一般の生活者も自由に電力会社を選んだりできるようになります。

夏山:生活者の中でもずいぶん知られていますよね。けれでも「すぐに電力会社を変えよう!」という動きにはまだつながっていないようですね。

横山:そうですね。2016年2月初めの時点で、電力会社変更届を出した方は約55,000件(※電力広域的運営推進機構調べ)ということです。私が所属している「エネルギーマーケティング推進室」では、5年前ほど前から様々な調査・研究を行ってきましたが、生活者が電力を選択する動きがこの先伸びていってくれるといいかなと思っています。

夏山:生活者にとって、電力自由化の魅力やメリットはなんでしょうか?

横山:いま企業がやろうとしているのは、やはり料金プラン、他の料金とのセットというところで差別化をはかろうとしているところが中心です。それから、一部の企業が太陽光発電などの「グリーン電力」で差別化をはかろうとしています。そのように、自分の志向と合った会社を選ぶことができるということもポイントの一つだと思います。

夏山:電気の使用量や料金って、毎月送られてくる「使用量のお知らせ」でしか意識しないですよね。普段どれぐらい電気を使っているのかがわからない。それは「見える化」しますか?

横山:「見える化」はすでに行われ始めています。東京ではご家庭にスマートメーターが入り始めており、東京電力さんのサービス区域に関しては、2020年までに全てのお客様へのスマートメーターの設置が予定されています。

夏山:なるほど。スマートメーターで日々の電気の使用状況がわかりやすくなるんですね。そういった情報はスマホなどでも見ることができるようになりますか?

横山:はい。実際にそういうサービスが、すでに一部地域で行われています。

夏山:最近ではスマホなどのデバイスが、かなり生活を変えてきているなぁと思います。

横山:そうですね。やはりスマホで手軽に見ることができるとなると、より多くの人が電気とつながっているサービスを利用するようになります。たとえば、自宅の子供部屋の電気点灯によって子どもの帰宅を判別することができるようになれば、働くお母さんのスマホに「お子さんが帰ってきました」というサインを送るとか、そういうことが可能になりますよね。

夏山:それは新しいですね。

横山:エネルギーはインフラなので、それ自体で変化の意味が可視化しづらいですよね。ですので、エネルギーと関連した日常生活の中の便利さなどが少しずつ広がることで、電力小売自由化がじわじわと効いてくるのだと思います。

小売事業者の多様化がサービスの多様化を生む

夏山:そのほかに、横山さんから見て生活者にとって魅力的な取り組みだと思うものはありますか?

横山:ある新規参入企業が、駆け付けサービスというものを行っています。電力・ガス・水道のトラブル全般に対する訪問対応サービスですね。「困ったときの街の便利屋としてお手伝いしますよ」という。それから、電気事業をやりながら家事代行のサービスを手掛けている電力会社もあります。

夏山:確実に来る超高齢化社会に向けて、そういうサービスは高齢者の支援としてもいいですね。一人暮らしの高齢者を対象にした調査によると、男性の4人に1人は、電球の交換のようなちょっとした用事を頼む相手がいないと答えています。ですから、暮らしに便利なサービスが多種多様に広がっていくのは、すごくいいことだと思います。

横山:ほかには、ある電機・家電メーカーがビル1棟の照明機器の無償交換、最適なライティングのコーディネーション、電力消費効率化など、照明関係全部を月額コストで対応しますということをやっています。

夏山:それもすごくおもしろいですね。

横山:このようなサービスは、おそらく将来的には一般的家庭にも広がるのではないかと思います。「あなたの視力に最適な照明の明度はこれくらいですね」とか、気分によって「今月はラグジュアリーな雰囲気で、来月は和風で」みたいな灯りの演出サービスの会社も出てくるかもしれません。

スーパーで自宅の冷蔵庫を見ながら買い物する時代?!

横山:いつ、どのようなサービスが出現して定着するかについては、現時点では具体的に言えないのですが、たとえばハイブリッドカーは、世に出てから利益化するまで7、8年かかっています。そのように、現時点ではほんの一部の人にしか使われていない商品で、ある程度の時間を経たのちに普及するものはたくさんあると思います。たとえばウェアラブル端末、医療・介護用のパワードスーツなど。身近な例ではロボット掃除機も、電気の効率化によってもっと長時間、静かに稼働するようになってくるかもしれません。

夏山:電気の力で動くモノたちの普及が新規参入組も含めた電力会社のサービスを向上させていく。また、こうした変化があるから、電気で動くモノたちがさらに普及していく。そして、その背景には超高齢化や単独世帯の増加などの社会環境の変化もあって…。すべて影響し合っているんでしょうね。

横山:冷蔵庫のような身近な家電品でも、センサー技術と画像認識技術があれば、何が入っているのかがわかるんですよ。つまり、スーパーマーケットで買い物中にスマホで確認すると、自宅の冷蔵庫の中が全部わかる。さらに、5個入っているリンゴのうち3つは傷んでいるということまでわかったりします。

夏山:それはいい! 博報堂生活総合研究所では、今年1月に「街の未来」に関する研究発表を行いました。そこでお伝えした未来仮説のうちのひとつは、従来は家にあったキッチンやお風呂などの設備や機能を、街なかで他の人と共有するようになるというものです。実際に、東京の杉並区に、会員になれば誰もが共有キッチンを使えて、そこで他の人と一緒に料理をつくって食べられるという場所があります。もちろん、そこでは冷蔵庫も共有なので、「○○を入れておきましたから、どうぞ」と会員さん同志がポストイットでコミュニケーションしたりしています。さっきおっしゃったような冷蔵庫があれば、他の人が入れたものでも何が入っているかわかるので、いいですよね。

エネルギーの「共用」がつくる社会

夏山:電気は家で自分と家族だけで使うという今の標準形はありつつも、暮らしが家の外へも向かっていけば、街で電気を共用するというようなことも増えるのではないでしょうか。いまもカフェなどでコンセントのある大きなテーブルをみんなで使っていますが、それは共用生活ですよね。

横山:どこのコンセントで使っても自分が使っている電気量がわかるような仕組みをつくるべきだという話もあったりします。要はカフェにEVスタンドのようなものがあり、どれだけ充電したかが全部記録されていて、最後にまとめて決済してしまう。その一方で、電力みたいなものは他のサービスとセットで供給するものだという考え方もあります。北欧には、食材から寝具・家具、そして電力もエコロジーというホテルがありますよね。この場合は、電力もサービスの特長の一つになっています

夏山:生活者の暮らし方や生き方が多様化していますから、ライフスタイルに合わせて選べるというのは確かにいいと思います。東日本大震災以降、電気が何からつくられているのかを気にされる方が少なからずいらっしゃいますよね。私たちの研究所の「生活定点」調査の最新結果によると、「太陽光など自然エネルギーを積極的に活用すべきだと思う」人は、女性では7割近くもいらっしゃいます。

横山:「HAKUHODO DESIGN」の永井一史さんの書籍『エネルギー問題に効くデザイン』(誠文堂新光社刊)に、水力・太陽光・風力・地熱・化石燃料など、7種の電源を選べるコンセントのアイデアがありましたよね。そういうところまでできるようになるといいですね。

夏山:電気がつくられる場所については、生活者の皆さんは意識されているのでしょうか?

横山:はい。エネルギーはつくった地域で使うのが効率がいいわけです。そういう観点から、電力の地産地消みたいな話は今後出てくると思いますし、それに向けて動き出している電力会社もあります。ただ単に電力事業をやるだけでなく、たとえば地域の企業とともにスポーツチームをスポンサードするという動きもあります。

夏山:それはいいですね。

横山:地域全体の活性化につなげられるような形の電力事業を行い、なおかつ地域振興・スポーツ振興も行えるというような形態ですね。

電気と結びつく明るい未来

夏山:私たちの研究所では、未来を予想するための様々な調査をしています。昨年11月に「2016年以降、話題になったり、普及・浸透していそう」と思うものをリストから選んでもらう調査をしました。上位に挙がったものは、自動衝突回避システムや電気自動車、実用型ロボット、音声認識アシスタントなどです。おそらく、このような予想の裏には、生活者の皆さんの期待もあると思うんです。さらに、10年後の街を描いてもらったお絵かき調査(下記参照)や、街で見つけた未来のきざし写真調査でも、自動運転や一人専用の乗り物、太陽光発電システム、自転車エスカレーターなどが登場しました。生活者の皆さんの心の根っこに「電気で未来の暮らしが便利になればいい」という思いがあるようです。

横山:そうですね。

夏山:また、最近、街のあちこちでコミュニティサイクルを見る機会も増えました。将来的にはコミュニティセグウェイができて、その乗り換えスポットで充電できると便利でしょうね。そういう外で充電できる仕組みみたいものも増えていくんでしょうね。

横山:そう思います。充電スポットみたいなものも増えていくでしょうし、自動車では非接触充電レーンを設置して走りながら充電するという実証実験も行われています。

▲博報堂生活総合研究所が実施した「街の未来のお絵かき調査」で生活者が描いた絵の一部

未来の市場は、生活者がつくる

横山:携帯やスマホがあったからこそ、あれだけ電池の技術が発達したということもあります。生活者の新しい欲求のタネになるものを企業が提供し、生活者がそれを求め、使っていくことで、また技術が発展する。そのようにエネルギーの市場も活性化していくと思うんです。たとえば、かつて緊急連絡用だったはずのポケベルが、女子高生の連絡ツールになったようなことがあって、世の中が変わっていったように。

夏山:そう。生活者がおもしろい使い方をすると普及していくっていうことはありますよね。昨年、「〈将来〉〈未来〉と聞いて、それぞれ何を連想しますか」という調査をしたところ、〈将来〉でトップに挙がるのが「老後」なんです。次に「自分」「夢」「現実」「不安」といった順。つまり〈将来〉では、自分に関する不安事が連想されるんですね。一方、〈未来〉はというと、トップに「期待/希望/可能性」といった明るい言葉が挙がってきます。また、「2016年の漢字」を一文字で表してもらったところ、楽しいを意味する「楽」がトップ。特に女性に多く挙がりました。生活者の気分は、不安な〈将来〉じゃなく、明るく楽しい〈未来〉に向かい始めている感じがします。

横山:エネルギーは身近なものであり、人々の生活になくてはならないものですが、いままでは企業が主導権を持って制度設計や供給を行うという世界でした。今回の自由化で、その主導権が生活者に移ってきます。これから、生活者にとって楽しいエネルギー市場ができ上がり、「未来」のひとつになるといいなと思います。

<終>

PROFILE

横山 陽史
博報堂エネルギーマーケティング推進室 マーケティングディレクター

外資系コンサルファームにてコンサルティング業務を担当したのち、2001年博報堂入社。2011年スマートグリッドビジネス推進室(現エネルギーマーケティング推進室)立ち上げに参画。電力自由化に関する企業への商品開発、ブランド戦略の提案を行っている。

夏山 明美
博報堂生活総合研究所 上席研究員

1964年大阪生まれ。1984年博報堂入社。主にマーケティング部門で調査分析、各種戦略立案などを担当。2007年より現職。リサーチ業務全般をプロデュース。関心領域は家族や家の機能、食の変化。